千葉 税理士の示し方
実例をあげると、八五年九月の「プラザ合意」で始まった猛烈な円高により、日本経済は深刻な「円高不況」に陥ったが、「円高不況」が底を打って「バブル景気」が始まったのは、基準日付では八六年十一月である。
ところが、その当時の景気の実感はどうだったかというと、不況一色だった。
当時、為替レートは一ドル=一二○円近くまで進んで一年間で約二倍の円高になり、自動車や電機などの輸出産業は大幅な減益に見舞われた。
鉄鋼は高炉の閉鎖を検討し、造船所はドックを減らすなど、「重厚長大産業の終駕」が公然と語られた。
ただ、株価だけは高水準を保ち、低金利による金余り現象を背景にしたことを変えなかった。
ところが、同年十一月の山一護券などの大型金融破綻が相次ぎ、マクロ景気は坂を転がり落ちるように悪化。
明らかな不況再来にもかかわらず、政府が景気の山を「九七年三月」と認定したのは、九八年六月になってからだった。
こうしたズレが生じるのは、「マクロとミクロのラグ」、あるいは「認知のラグ」と呼ばれる現象だ。
一般に、政府、企業、個人とも景気に対する実感は遅れるのが普通だ。
実際の景気動向と景気に対する認識にはズレが生じるという意味である。
企業の経営者は、他産業や他社が経営悪化に陥っているうちは「景気が悪い」とは思わず、「経営力の差だ」などと考えがちである。
自社の利益が減りはじめてから、「やはり景気は悪い」と思うわけだ。
狸財テクブームを予感させる時期だったのである。
これに対して、政府は八六年九月、翌八七年五月に計九兆円の経済対策を発表。
白銀も数回にわたって公定歩合を引き下げ、八七年二月には史上最低水準(当時)の二・五%まで下げ、財政・金融の両面で対策を打った。
ところが、基準日付によると、八七年五月の経済対策のころ、マクロ景気は上り調子になってからすでに半年も過ぎていた。
しかも、経企庁が八六年十一月の底打ちを認定したのは、実に八七年後半になってからだった。
同じようなことは、消費税率を三%から五%に上げた九七年にも起こった。
四月からの増税で、個人消費が大きくダウンしたにもかかわらず、政府はコ時的な要因にすぎず、緩やかな回復基調は変わらない」という見解同じように、個人もボーナスが減って初めて景気の悪さを感じ出し、一厘用調整が始まると、やっと真っ青になるというのが普通の感じ方である。
しかし、景気が昔の高度成長期のように、好不況の波がはっきりしていればまだわかりやすいが、低成長期になって景気の波が穏やかになると、景気に対する実感も鈍くなりがちである。
早い話、豊かな現代では、景気が悪いといっても、昔のように失業者が街にあふれたり、デモ隊と警察が衝突するような光景は見られない。
せいぜい、月に三度の外食を一回に減らしたり、車の買い替えを思いとどまり、次の車検まで乗り続けるといった節約のしかたで我慢するのが普通。
景気に対する実感が薄くなるのも自然なことである。
それだけ「認知のラグ」が起きやすくなるわけだ。
景気基準日付では遅すぎかといって人間の実感も当てにならないとすれば、いったい何を判断材料にすればいいのか。
四半期ごとに発表されるGDPを材料にできないか、とだれもが思うはずだ。
GDPはマクロ経済の最有力指標だから、当然のことながら判断材料にはなり、現実に経企庁も景気基準日付の認定にあたっては、DIやGDPの動きなどを総合的に見て判断している。
この点、低成長では日本の先を行く米国では、日本のような景気基準日付ではなく、四半期(三カ月)ごとの実質GDPの前期比伸び率が四半期連続してマイナスになった場合を景気後退期とする〃簡便法〃を採用している。
ドイツの場合も、ほぼ同じような認定のしかたをしている。
もちろん、実際には、四半期を待たなくても、景気の様子はほぼわかるため、その前から景気刺激策をとるのが普通である。
ところが、これまでの日本経済には、この方法を当てはめにくかった。
バブル以前まで、四半期のGDPが連続して前期比マイナスになったことは、戦後たった一回しかなかったからだ。
七三年の第一次石油ショックである。
現実には、基準日付によって、戦後二回の景気後退が確認されているから、〃米独方式″は日本の景気判断には向いていないとされていた。
しかし、九七年以降のデフレ経済が深刻になり、九八年いっぱいまで四半期連続の前期比マイナスという体験をしたことから、エコノミーストらの間で「日本も、わかりやすい〃簡便法″を採用すべきだ」との声が強まっている。
経企庁も、判断の迅速化になることから採用を検討している。
低成長時代のGDP大国にとって、景気判断の方法も変わりつつある。
毎年、年末から年明けにかけて、「政府経済見通しは三%台か」「政府見通しは強気」などといったニュースが、新聞やテレビで盛んに報道される。
この経済見通しはいったい、だれが、どういう目的で作るのだろうか。
政府経済見通しは、新年度の国の経済運営がどういう内容になるかを示す、いわば経済の基本方針である。
このため、基礎的な数字として、年間のGDP伸び率と各主要項目ごとの伸び率、鉱工業生産の伸び率、卸売物価や消費者物価の上昇率、労働力人口や完全失業率といった雇用の見通し、輸出入と貿易収支、経常収支など国際収支の見通しが公表される。
先進国では毎年度作成し、経済協力開発機構(OECD)を通じて発表される。
政府見通しの作成は経済企画庁が中心になり、大蔵省や通産省など他省庁と相談しながら、新年度予算編成期の毎年末に決定。
通常は、翌年初めの閣議で正式決定され、「○○年度の経済見通しと経済運営の基本的態度」という名前で公表される。
この時、新年度の見通しと同時に、当年度支出項目のどの分野が伸び、どの分野が伸びないかを見れば、政府がどの分野に注目し、力を入れようとしているかだいたい理解できる。
政府見通しと同時に、「○○総合研究所」など民間のシンクタンクからも、ほぼ一斉に経済成長の予想が出され、政府見通しとの違いなどが話題になる。
一般的な傾向は、民間サイドの予想が経済モデルなどを駆使した、予想時点では最もあり得る見通しを立てるため、成長率は年度によってかなりブレが見られる。
このため、四半期ごとに見通しを修正するのが普通である。
これに対して、政府見通しの方は政策当局として「経済の安定的な運営」という基本目鐙の実績見込みも作り、実績見込みに対する伸び率が発表されるが、一年前に作成した当初見通しとの比較ではないので注意が必要だ。
経済の予測はむずかしいため、一年前の見通しが大きく狂うことも珍しくなく、新年度の見通しは実績見込みに比較してどうなるか、という見方の方が現実的だからだ。
この点は、企業が当年度の決算見通しを作ったうえで、新年度の業績予想を立てるのと同じことである。
政府見通しの中で、最も注目されるのは実質成長率。
というのは、新しい年の景気が良いのか悪いのか、内需と外需の寄与度はどうかなど、政府がどう見ているかがわかり、どんな政策を打ち出すかも、ある程度予想できるからである。
標があるので、民間に比べて不況時には成長率を高く、好況時には低く見る傾向がある。
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